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* 電気・磁気5:電流の磁気作用(1820年:エルステッド)

Q32: デンマークのエルステッドは、1820年4月のある日、電線に電流を流したところ、近くに置いた磁針が通電と供に振れる事を偶然見つけた。電流の磁気作用を示す画期的な発見と興奮したものの、なぜか彼はその後3ヶ月間この実験を止めてしてしまった。いったいどういう理由で止めたのだろう?

 1800年当時、電気と磁気(磁石)は別のもので両者に関係は無いと多くの科学者は考えていた。しかし、不思議な現象として、雷が鳴ると磁針が振れたり、雷が落ちた船の羅針盤は奇妙な方位を示すことが知られており、その理由は誰も分からなかった。1777年デンマークのランゲラン島に薬剤師の子供として生まれたエルステッド(Hans Christian Ørsted、デンマーク、1777~1851年)は、正規な教育は受けなかったが、17歳でコペンハーゲン大に入学し自然哲学を学ぶ。さらに1801年あたりから3年間をかけて、ドイツを中心にヨーロッパ各地を回り科学の素養を吸収していった。そしてその放浪の中で、発明されたばかりのボルタ電池に強い関心を持ち、紫外線の発見で有名な科学者リッター(Johann Wilhelm Ritter、独、 1776~1810年)や哲学者カント(Immanuel Kant、独、1724~1804年)の思想的影響を受けることになる。リッターは自然の根底には「相互の関連性があり、それらによる統一体が構成されている」そして、その構成の中に「極性(対称性のようなもの)が存在する」と強く信じていた。そして赤外線が可視光線の長波長側に発見されたとき、その対称的な構成として短波長側にも見えない光線があるはずだと予測し、それにあたる紫外線をみごと発見してしまうのである。又、電気と磁気の間にも美しい相互関係があると信じていて、その考えがエルステッドにも影響を及ぼすことになった。大きな根拠はないが、自然界の対称性の美しさを信じその信念で真理に近づく、数学的(宗教的?)とも言える方法論であった。

 エルステッドはリッターからの影響もあり、雷の磁気作用から電気と磁気の関係を強く信じる当時としては珍しい科学者の一人であった。その彼が表記のクイズに示した様な実験を大学の授業で行ったことが、幸運を呼ぶのである。ところが、電流の向きと磁力の方向が予想に反する方向であった。これは後に分かった「アンペール右ねじの法則」に見るように、電流方向に対し磁力は右ねじを回転させるような垂直面内で回転方向に生じるという奇妙さの為であった。現象の奇妙さに苦難を覚えながらも、この理由を考え、いろいろ数学的な考察をしたのだが、さっぱり分からない。そこで実験を続ける気力を失ってしまったのである。しかし3ヶ月後、気を取り直し、兎に角この現象の特徴を調べ上げる事にした。それは確かに想像を絶する、非常に奇妙な以下のような特徴を持つものであった。

・電流の方向と磁針の振れる方向がそろっていない(電線に平行方向でない)
・電線(電流)の上下位置で磁針の振れ方は逆になる
・電線と磁針の間を絶縁体で遮蔽しても絶縁体の影響はなく、磁針は振れる
・電流の向きを逆にすると磁針の振れ方がほぼ逆方向に変化する
・磁針の振れ角は地磁気と電流の影響の和になっている

 これらの性質を確認した後、エルステッドはすぐに論文を発表(1820年夏)。その重要性はすぐ科学界で認められ、驚きと供に多くの科学者により競うように追試がなされた。そしてさらにエルステッドが見逃した次の様な発見が相次いだのである。

・1820年9月:アンペール(仏)による「右ねじの法則」「電線間の磁気力の発見」「電流計の発明」
・1820年10月:ビオとサバール(仏)による「ビオ=サバールの法則」および電流の磁気効果の数学的理論提案
・1820年9~11月:アラゴ(仏)による、電流の周りの磁力線の観察、電磁石の発明

これはまさに、ボルタ電池の発明によって「電流」(静電気ではない流れる電気)という技術を手に入れた人類が、磁気を電流によって発生させ、電磁石やモーターなどの動力を生み出し、さらに電流や電圧を精度よく「計測」し「制御」する時代を切り開き始めた事を意味している。つまりエルステッドの発見によって「電磁気」の時代(文明)が始まったのだ。それにしても新しい「技術」が発明された時は、新しい発見(科学)が相次ぐチャンスと言える。そういう意味で新しい技術に常に好奇心を持っている人が次の発見や発明に遭遇する可能性が高い。

 どんな形でも良いから、新しい技術をいち早く使ってみて、なんらかの実験にチャレンジする。そんな中に次の宝が掘り起こされる可能性がある。エルステッドの幸運は、デンマークに閉じこもらずに、ヨーロッパを3年かけて旅して回ったことによっている。同時代に活躍したモーツアルト(Wolfgang Amadeus Mozart、墺、、1756~1791年)の一生も旅回りだったが、そこから得られたものは限りなく大きかった。「僕は旅をしない人の気持ちが全く分かりません、そこから得られる以上のものは他には無いでしょう。」とモーツアルトは語っている。創造の糧は科学も音楽も同じようである。(トランジスタ技術、2014年10月号に掲載)

宿題32;電流の磁気作用は実はエルステッドに先立つこと18年前、1802年にイタリアの法律家で科学愛好家のロマグノジが発見したことを当時のイタリアの新聞が報じていた。この画期的な記事はなぜ、無視されたのだろう?

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